初出場で“旋風”を巻き起こしてきた南瀬谷ライオンズ(神奈川)は、毎回安打を「18イニング」に更新して2回表に先制。しかし、同記録と毎回出塁を相次いでストップさせた多賀少年野球クラブ(滋賀)が、その矢先の4回裏に逆転して逃げ切り。2019年以来7年ぶり5回目のファイナル進出を決めた。準決勝第2試合のリポートは、ヒーローと敗軍のチームルポまでお届けする。
(写真=福地和男、大久保克哉、鈴木秀樹)
■準決勝
◇8月12日◇坊っちゃんスタジアム
▽第2試合
5年生宮下が代打逆転決勝二塁打


[神奈川]初出場
南瀬谷ライオンズ
010000=1
00020 X=2
多賀少年野球クラブ
[滋賀]9大会連続19回目
【南】音村、馬場-山尾
【多】生川、岸本-岸本、西堀、生川
二塁打/船田(南)、岸本、宮下(多)
【評】ともに走塁死で初回のチャンスをつぶした後、南瀬谷が先に流れをつかんだ。2回表二死から、六番・船田虎太郎の右越え二塁打と続く永野颯人(5年)の右前タイムリーで1点を先取。投げては2回戦以来の先発となる右腕・音村星茶が、3回まで毎回のピンチを無失点で切り抜ける。一方の多賀も、先発の生川友翔が尻上がりに調子を上げて、18イニング続いてきた南瀬谷の連続安打を3回表にストップ。続く4回表はクリーンナップを3者斬りで流れを呼んだ。そして4回裏、多賀は村井大翔と関沢勇吾(4年)の連打に犠打で一死二、三塁とし、八番・西邑叶惟(5年)が2球目に同点スクイズを決める。さらに、代打・宮下朝陽(5年)の中越え二塁打で2対1と逆転。この最少リードを生川-岸本來橙の継投で守り抜いた。南瀬谷は2回戦の2回表から20イニング続いた毎回出塁も4回表に止まり、以降もヒットは生まれなかった。

2回表、南瀬谷は船田の右二塁打㊤と、5年生・永野の右前打㊦で1点を先取


3回裏、多賀は一番・岸本が右越え二塁打から敵失で三進㊤。だが、南瀬谷のエース・音村が一死三塁から後続2者を抑えてベンチへ㊦


南瀬谷は3回表、村瀬嘉泰主将が四球を選んで20イニング連続出塁㊤。だが、多賀の先発・生川㊦はこの回から6回二死まで無安打で得点を許さず


4回裏、多賀は五番・村井㊤と4年生の六番・関沢㊦の連打で無死一、二塁に


4回裏、福田賢多郎の犠打㊤で一死二、三塁とした多賀は、続く中邑(5年)のスクイズ㊦で1対1に


4回裏、同点とした多賀は5年生の代打・宮下の中越え二塁打㊤で2対1と逆転。6回表二死、南瀬谷の四番・山尾燈汰があわや同点弾のサク越えも判定はファウル㊦

―Pick up HERO―
さい配ズバリ!!ぼぼ完投で仲間も救う
(取材&文=大久保克哉)

6回二死まで3安打1失点。完投勝利を目前に球数が70球を超えて降板したが、文句なしの『マン・オブ・ザ・マッチ』だ。いや、プロ野球のような“お立ち台”があれば、生川友翔は2日連続でそこに招かれていたかもしれない。

前日の準々決勝では延長7回裏に、自らサヨナラ内野安打
この右腕は前日の準々決勝(対福岡・木屋瀬バンブーズ)も、再登板した5回途中から延長7回までを無安打の好投で、サヨナラ勝ちにつなげた。最初にリリーフした4回には、痛恨の3点二塁打を浴びるも、6回にはその打者を二ゴロでリベンジ。
「(4回に)打たれたボールと、コースも速さも同じ球を厳しく投げて、やり返しました!」

迎えた準決勝は大会初先発。前日の良い流れをそのまま、というよりは対戦相手を鑑みての起用だったと、辻正人監督は試合後に明かした。
「相手の打線はスピードボールに強い。中でも一番の子(古川泰輔)は、アウトコースに(ボールを)1つ2つ外しても持っていく力がある。で、ウチの生川は速球だけじゃなくて、モーションのスピードも若干変わるので、勝負できるんとちゃうかな、と。コースの投げ分けとかはそもそも考えずに、打ちにくるときのタイミングを外す、という狙いだけをもって先発させました」

球のスピードは、出ても3ケタには達しないが、テイクバックでグラブを頭上へ掲げる投球フォームは独創的。一本足のフェーズでは、二段モーション(現在は解禁)のようにフリーの片足を前後してリズムをとることも。そうした諸々が、打者には打ちにくかったり、合わせづらいのだろう。
2回に連打されて1点は失うも、18イニング続いてきた相手の毎回安打を3回でついに阻止。以降も2四球以外は出塁を許さなかった。
「自分ではもう、点を取られるのは当たり前だと思っているので、失点してもどう流れを渡さずに自分たちの攻撃にもっていけるかを考えて投げています」

指揮官の読みと狙いはスバリ。だが、実はアクシデントも生じていた。本来はもっと早い段階で救援する予定だった岸本來橙(=㊦写真)が、走塁で足を負傷。そのまま交代はせず、6回二死から登板して最後のアウトを奪ったが、生川は途中から完投する意気込みだったという。
「エースの子(岸本)が『ちょっと足が痛い』と言っていたので、もうこのままいくぞと思って投げていました」

豊富な投手陣のなかで唯一、1回戦から全5試合に登板して計188球。残る1試合、決勝戦は投げられても22球(※1週間で210球までがルール)しかないが、気丈にこう言った。
「あしたはまぁ、リリーフでいくかもしれないけど、点は取られても流れは渡さないようにピシッと抑えるところは抑えれるようにがんばりたいです」

―Team Inside Story―
ひと夏で終わりそうにない”旋風”
(取材&文=鈴木秀樹)
第3位
【2026戦いの軌跡】
2回戦〇9対0中条(広島)
3回戦〇7対6新家(大阪)
準々決〇4対3オ富山(富山)
準決勝●1対2多賀(滋賀)

四国入り後に親交を深めた熊本・IBCレイカーズの選手たちが、準決勝の南瀬谷を応援にスタジアムへ足を運んでいた
「日本一の声と元気」を掲げ、今大会でも快進撃を見せてきた南瀬谷・渡邉記章監督が白旗をあげた。
「やっている野球が違いました。ウチの野球をさせてもらえませんでした」
さらに続けた。
「しかも、ウチよりもマナーが良い。あれこそ『日本一の声と元気』です」
そう言って勝者の多賀をたたえるのだった。

とはいえ、1対2。完敗と言い切るほどの差はないようにも思えるが…。
「ウチは一番の古川(泰輔)と二番の橋元(涼)が打てないとこういう試合になります。あの二人が、まったくタイミングをとれていませんでした。スローボールにクイックに…。相手投手がうまかったですね」

打線をリードしてきた古川㊤は準決勝は無安打。二番・橋元は初回に左前打㊦

一方で、ディフェンス面に目を向ければ、「厳しいところに投げて、打たせて取ることを考えて投げました」と振り返る、先発の音村星茶、5回を3人でピシャリと抑えた馬場壮輝の2投手は、いずれも落ち着いたマウンドさばきで好投。バックも好守備でこれに応え、1、2、3回といずれも走者を三塁まで進められながらも好守備を重ねて守り切り、無失点でしのいだ。
「そうですね。普段、練習でしていないことはできない。そういう意味では、練習してきたことは100%、出し切ってくれたと思います」

音村㊤から馬場㊦の継投で、多賀打線を6安打1点に抑えたが…

失点した4回裏は連打から一死二、三塁となり、渡邉監督がマウンドへ。
「あそこは『1点はいいよ』と。実は戦う前から、ロースコアの決着は予想していなくて、4、5点の勝負だと思っていたんです。今考えれば、あの1点が大きかったんですよね…」

終わってみれば、僅差の惜敗。
「これまでと違って、今日の試合だけは、いつも通りに戦えていなかったですね。点差以上の差を感じます。多賀さん独特の圧力みたいなものも感じましたかね…。チームづくりでは、多賀さんはいつも目指しているチームでもあるんです。こうして実際、戦うことができたのも、ここまで勝ち上がったから、とも思いますが、やっぱり悔しいなあ」
渡邉監督はそう言って、これまでの試合と同じように対戦相手の監督のもとへ歩み寄り、ともに笑顔で互いの健闘をたたえ合うのだった。

どの試合もワクワク
銅メダルを手にしながらも、敗戦の失意からはまだ立ち直れていない選手たち。それでも、その後に行われた「アフターマッチ・ファンクション」では多賀の選手らと「日本一の元気」チーム同士らしく、積極的に言葉を交わし、笑顔を取り戻していた。
「今日負けてしまったのは悔しいけど、ここまでずっといい試合ができて、メダルが取れたのはうれしい。これからにつなげたいです」と村瀬主将。準々決勝の好投に続き、この日は二塁打を放った後、先制のホームに滑り込んだ船田虎太郎(=㊤写真)は、連日の試合ですっかり枯らしてしまった声で「どの試合も緊張より、ワクワクしてプレーできました。楽しかったです」と笑顔で話した。
先制タイムリーの永野颯人はスタメン唯一の5年生。「坊っちゃんスタジアムでの試合は少し緊張したけど、楽しかったです。タイムリーは絶対に打ってやろうと。来年もまた来ます!」と宣言した。

準決勝の3回以降は無安打も、全力走は不変。投ゴロの船田㊤も、投飛の村瀬主将㊦もMAXで一塁へ。南瀬谷の「元気」には、こういう下地もある

神奈川県代表としては2014年大会の六会レッズ、2016年大会の富士見台ウルフ少年野球クラブと並び、県勢最高の3位で大会を終えた。初出場ながら、とびきり元気なベンチと、思い切りの良いプレーで応援団を沸かせ、先頭打者からの3者連続ホームランでスタンドの度肝を抜くなど、鮮烈な印象を残した。

就任5年目で、チームを新たなステージに導いた渡邉監督は「いやもう、これ以上ない経験です」と笑顔。「今年は同じ横浜の戸塚アイアンボンドスさんがとにかく強くて、全国に出てもきっといい成績を残すんだろうな、というレベルでしたから、ウチも早々には負けられないな、なんて、監督だけが勝手にプレッシャーを感じていたんですが、途中からはそれも忘れていましたね」

指揮官のコミュニケーション力は、全国でもトップクラスかもしれない

アフターマッチ・ファンクションの後には、多賀・辻正人監督に「また全国で会いましょう!」と声を掛けられる場面も。「ここまで勝たせてもらって、でも逆に、宿題をもらっちゃった感じもあります。またこの舞台に来たいですね」
さわやかな旋風を巻き起こしたニューカマーは、捲土重来を期し、激戦の横浜に戻って、また新たなスタートを切る。